良質な翻訳とは


良質な翻訳とはどのようなものか。実務翻訳の場合、翻訳された文章を「最終的に使う人」が満足できるかどうかが重要だと考えます。つまり、文章の使用目的や対象読者、あるいはクライアントの「好み」に合わせて、表現を使い分ける柔軟性も必要です。もちろん文法的、言語的な正しさは確保したうえでのことです。

一方で、実務翻訳の品質評価の難しさについては、2014年JTF翻訳祭のセッションでも取り上げられました。つまり、こういうことです。評価を担当する人の好みによる(担当者が変わると指示が変わる)ことも、実際のところ少なくなくありません。肝心な情報(クライアント社内の人しか知らない情報)が翻訳時に提供されないことで正しい解釈ができないケースについて、翻訳者の能力不足であるかのような指摘を受けることもあります。こうしたギャップは、こまめなフィードバックのやり取りがあることで少しは改善されるのかと思いますが、「望ましい翻訳」に近づける相互努力と、(たとえば発注先の選定のために)品質評価を数値化することとは、次元が違うように思います。このあたりについて、クライアントや翻訳会社、翻訳者の間で意見交換の機会があり、目指す翻訳について共通認識ができるのが理想です。

私個人としては、発注側(ソースクライアント企業)の社内翻訳者として7年勤務した経験があり、翻訳業務にはさまざまな制約(コストや時間)が課せられることを理解しています。また、翻訳された文章を使う立場の人の考え方も見聞きしてきました。こうした経験は、フリーランス翻訳者として受注側となってからも、求められる翻訳を提供するうえで役立っています。