JTF翻訳祭2014

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11/26(水)にJTF翻訳祭に参加してきました。

午前中はトラック2セッション1&2で司会進行ボランティアを担当しました。午後はフリーで、仕事に関係ありそうなセッションを聴講しました。

◆トラック2セッション1
クラウド翻訳がテーマでしたが、講演者の会社の事業紹介と、同社がOEM提供するクラウド翻訳の説明が主でした。この場合のクラウド翻訳とは、顧客からの照会(翻訳対象のアップロード)~見積~受注~翻訳者のアサイン~納品~評価までがすべてWebサイト上で完了するビジネスモデルを言っています。私はこのタイプの翻訳業務には一切かかわったことがないので推測ですが、同社のクラウド翻訳の特色として、顧客が翻訳者を選ぶときに一覧表示される「順位」に独自性があるように思いました。指定された言語と分野での実績や、顧客からの評価、翻訳の品質について指摘があった後の対応などによって(表には見えない)パラメーターがあり、それによって翻訳者の「順位」が決まるようでした。翻訳者の実績に関しては、最初は安いレートの受注で実績を作り、だんだん高レートのクラスに移行する仕組みのようです。

講演の中でも言及がありましたが、駆け出しの翻訳者以外でも、プロジェクトとプロジェクトの合間にほどよく単発の仕事を請けられるという期待を持って登録する人はいるのかもしれません。私自身は、んー、まず登録はしないと思います。理由としては、こうしたクラウド翻訳を利用する顧客が翻訳のプロセスを理解し正しく品質を評価できると思えないからであり、おそらくこちらのストレスが溜まるからです。

◆トラック2セッション2
これは翻訳・通訳に関するISO規格の最新動向の報告。JTFのISO規格検討会の3名が登壇されました。国際的な規格がまもなく発行される見込みである一方で、日本国内での規格化や認証機関の設置については何も決まっていないようです。

個人翻訳者にどのような影響があるのか興味を持って拝聴しましたが、翻訳者も規格に定められるTranslation Service Providerであることは間違いないものの、認証を取得する必要まではなさそうです。直接的な影響を受けるのは、国際入札の機会がある翻訳会社だと思われます。ただし、そうした翻訳会社がISO規格に遵守してプロジェクトを進める場合、プロジェクトに参加する翻訳者も規格の要件を満たす必要が出てきます。

◆トラック1セッション3
翻訳チェックのガイドラインに関する検討セッション。翻訳をチェックしてフィードバックする際に、「恣意的」な修正(実質的には翻訳のエラーではないもの、好みの問題だったり、翻訳者が知り得ない内部情報に基づく修正など)はなるべく減らし、本当に問題になる翻訳エラーを伝え、将来の改善につなげるためにどうすればいいか、翻訳者、翻訳会社、ソースクライアントそれぞれの立場からの提案がありました。

翻訳品質がらみのテーマでは目新しい話はあまりないかと思っていましたが、コミュニケーションの取り方などいろいろと参考になる点もありました。

◆トラック3セッション4
MLV(Multi Language Vender)のプロジェクトマネージャー達が語る最新動向。聴講者からの希望に基づいて、「MT/PE(機械翻訳/ポストエディット)案件」と「アジャイル型案件」、今後の翻訳市場について、割とぶっちゃけた話を聞けました。とても面白かったです。

MT/PEについては、クライアントの関心も高く、各社ともチームを設けるなどの対応はしているようです。実際のことろ、Moses(統計的機械翻訳)ベースのMTエンジンは、それなりの訳文ができるレベルになっている、また、文字入力を効率化できるという程度の期待度で使えばいいのではという話もありました。いずれにしてもMTの訳文はポストエディットすることが前提になるが、どこまで手直しするか、MT/PE案件で求める品質レベルについてクライアントが納得したうえで進めないとうまくいかない、また、コスト削減を期待するクライアントについては、それほどコスト的には削減にならないことも理解してもらわないと、という話でした。

私は純粋なPE案件というのは請けないですが、一部のクライアントでは既存の翻訳メモリとMT(機械翻訳)にかけた翻訳メモリを併用しており、既存のメモリで新規扱いのセグメントにはMTの訳文が提示されるようになっています。この案件でのMTの訳文を見る限り、たしかに、わずかな手直しだけで通用する、驚くほどこなれた訳文もあります。一方で、一目で「なんじゃこりゃ」という、文章の構造がめちゃくちゃな訳文も出てきます。パッと見て「使えない」と判断した訳文は、手直しして使うよりも、1回捨てて(原文に戻して)訳し直してしまいます。つまり、入力の効率化にはほとんどならないですね。

アジャイル型案件については、翻訳ボリュームの予測がつかない、波がある、翻訳者がアイドル状態だったり多忙だったりする(つまり総じて厄介な案件)という印象でした。まあ、そうでしょうね、というところです。

今後の翻訳市場、というかMLVが置かれている状況と見通しについては、グローバルに見て日本オフィスは人件費などのコストが高いので利益が上がらず、日本でなくてもできる作業はどんどん海外(人件費が安い国)に流れている。そうした中で日本オフィスの存在価値を示すべく、皆さん付加価値の高い仕事を模索されているようです。

たしかに私がお付き合いのあるMLVも、日本オフィスからではなく海外オフィスのPMから直接打診が来て、やり取りすることが増えました。まあ正直言って、日本のPMさんと比べると海外のPMさんは雑です。たとえば同じソースクライアントの仕事でも、日本から来るときは翻訳メモリ、用語集、スタイルガイド、指示書などしっかり送られてくるのに、海外からだと指示もろくになく、ファイルだけをぽんと送ってきたり。あげくにPOの発行を忘れていたり。日本人の感覚からすると雑すぎると言ってもいいでしょう。よくクライアントから苦情が来ないなと思うのですが、実際は来ている(そして日本オフィスの方が謝っている)のかもしれません。